蝦夷地別件
アイヌ関連小説、3週間かけて読了。
下巻を閉じてしばらく放心。
凄い、凄い物語を読んでしまった。全人類に勧めたい欲に駆られているけれど、これは気軽に人に貸せる類ではない、かも。
長編小説を読む圧倒的な快感を味わった。尋常でない密度。これマンガ化したらそれこそ20巻は必要なのでは?
下巻の残りページが少なくなっていくことが本当に惜しくて惜しくて、ずっとこの物語の波に浸っていたいのにページをめくる手は止まらない。
歴史の結末を知っているだけに読んでいて辛いし、その辛さを裏切らない展開の重さに胸が痛い。でもフィクションだからこそできることも描かれていて、私はそこに期待してずっと読み進めていた。
ハルナフリの変化はそのまま彼が受けた絶望と憤怒を現わしていて安易に涙を流すこともできない。それでも理不尽な暴力に甘んじないことをフィクションに求めたい私には後半からラストまでの展開は苦しいけれど救いでもあった。
ゴールデンカムイの時代のアイヌ社会がこういう歴史を経ていたことを知ると、1巻の白石の「そのアイヌはお前さんの飼いイヌか?」という台詞が長く深い差別の歴史と構造を実感させる。
私は知らないことばかりだよ。
主要な登場人物はアイヌ・和人・ポーランド人。アイヌの話だと思って読みはじめたら、早々にエカテリーナ二世の名前が出るわ、舞台がサンクトペテルブルクに移るわ、ポチョムキンまで登場するわ、予想外の世界の広がり方に驚かされつつ、個人と国家それぞれの思惑が絡み合い大きなうねりになって歴史が作られ、ひとつの物語に集約されるのは本当にお見事。作家って凄い。作成過程のプロットが知りたい。
人物が変わるたびに単語のルビが変化するのも良かった。
もはや中巻に入る頃には「長人」は「オトナ」、「刳舟」は「チブ」、「評定」は「チャランケ」と脳内変換されるようになっていた。
ゴールデンカムイのおかげでこの小説にたどり着いたし、ゴールデンカムイのおかげで描かれたアイヌやその社会が自然に想像できて理解の一助になった。
あと私はよしながふみ「大奥」の民でもあるので、作中頻繁に名前が出てくる田沼や松平はほぼほぼよしなが絵の女性キャラで思い浮かべていたし、エカテリーナ二世とポチョムキンは池田理代子絵しか浮かばなかった。歴史をすべてマンガで学んだ者の業。
(ちなみに大黒屋三太夫は緒形拳。うん十年前に映画館で観た勢)